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沈黙を破り、慎重に声を出す。
「ダン師匠の動き、全然見えませんでした。私の矢を躱(かわ)した時の、……え、えと…地面を這って動く……ホ、ホフ…」
先日教えてもらった言葉を思い出せないのか、空気をかき混ぜるような手振りを見せる。また忘れたのかとどやされては、さすがのアリアも恐縮の限界を超えてしまいそうだ。
「匍匐(ほふく)前進(ぜんしん)だ」
気に留めずダンは言った。
「そう、ホフクゼンシン!」
支(つっか)えたものが取れて思い出したと言わんばかりに、アリアは晴れやかな笑顔を出す。慣れていない言葉なのか、イントネーションがずれていた。
「そう思うのであればお前も身に付ければよかろう」
「いや、その」
笑顔がぱっと消え、バツが悪いようにアリアは苦笑いを浮かべる。私はこれですから、と自分の右腕を少し上に挙げた。
それは肩から指先にかけて人の腕ではないと誰でもわかる鋼の塊。腕に装備を付けたものではなく、義肢として人体と繋がっている。構造上、肘関節が無いため、一直線のブリキの腕では匍匐前進をするのは不向きであった。
実際、アリアは一度平地で試みたが、十分かけて十五メートルしか進めなかった。片腕と両足だけでは前進するのに大きな負担がかかる。それに万が一、狙撃を行うための匍匐前進で武器である右腕が地面にぶつけたりして故障でもしたら元も子もない。狙撃武器は精密なため、ちょっとした衝撃でも軽視してはいけないのだ。
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