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大きなベンチが一つと、いくつかのロッカーが並ぶだけのそっけない部屋に、少年はいた。
汗とワセリンの独特な臭いの立ち込める部屋には似つかわしくない、整った精悍な顔立ちの少年だ。
黒いグローブを両手に着け上半身裸にトランクスという姿から、格闘家だと容易に想像できる。
体の表面には汗がにじみ出ていた。先ほどまでウォーミングアップをしていたのだろう。今は関係者も部屋の外に出して瞑想にふけっている。まさに試合前の格闘家の様子だった。
しかしヘッドギア(頭を保護するもの)もレガース(すねあて)も着けていない。これは少年が今からプロの試合に望むことを意味する。プロの格闘家にしては少年は若すぎるように見えた。
十代半ばほどにも見える。
そしてその若い容姿とは反対に、試合に臨む格闘家とは思えないほどに落ち着いていた。
少年が落ち着いて心拍数を図っていると、図り終える前に部屋のドアが勢いよく開いた。
「あ、翔! もう試合始まっちゃうの? 会長さん達も入っていいって言ってたから、その、ごめん邪魔しちゃったかな?」
良く通る綺麗な高い声が控え室に響いた。
翔と呼ばれた少年は、突如部屋に入ってきた少女に笑みを見せた。背の低いとてつもない美少女で、きれいな長い黒髪と大きなクリクリの目がチャームポイントだ。
「来ると思ったよ。ミク、試合前にお前の顔見ると安心するよ」
「よかった、がんばってね! これ勝ったらチャンピオンでしょ!?」
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