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ただ、飲みたくなった。
だから、二日間だけ守った禁酒を破り。
うっすらとまだ、生暖かい風を感じながら、有名チェーン店の居酒屋でジョッキのビール生を三杯と、焼酎の水割りを二杯飲んだ。
へべれけになるくらいまでではなく、軽くほろ酔い程度。
飲み飽きたから、まずは、勘定を済ませ、外に出る。
外はもう、ネオンの光に包まれており月や星など見えない状態だった。
サラリーマンや、大学生らしき男女が嬉しそうな声を出しながら夏の夜を楽しんでいた。
でも……。
――ここから、離れよう。
私はそんな気になどなれず、かといって家にも帰らず静かなところへ行こうと思っていた。
帰るにはまだ、早いだろう。
誰も言わないのに言い訳をするように心の中で。
そして、頭の中で回想する昔の思い出……。
あの頃はただ、楽しかった。
小説家という華々しい職業を目指し、努力してる自分に酔っていた。
地味でオタクな自分から有名人になりたかっただけ。
だが、そんな安直な考えを見破られたかのように、親から、猛烈に大反対された。
―――お前がそんな大層な職業につけるわけない!!
そう叫ばれて。
だが、、私は両親の反対を振り切り、ここ有象無象の東京へ足を踏み入れた。
そう、今だから、有象無象の東京、と言えるのだ。
ここにはもっと輝いたものがあると私は思っていた。
でも、その幻想は一ヶ月で破られる。
確かにここはチャンスを掴めば大きくなれる。
だが、現実は甘くない。
何の努力もしない私がここで大きくなろうとすることなんて不可能に決まっているのだ。
現に、書き損じの原稿用紙が散らばる暗い部屋に戻りたくないと思っていた。そこで、コンビニで買った缶ビールを片手に持ち、普段は歩かない場所を歩いてみた。
月光や星明かりがあるかと思えば全くなく、ただ、オレンジや白の街灯が寂しそうに並んでいるだけ。
アスファルトを踏みしめながら、ゆっくり、ゆっくりと歩いてる姿はまるで夢遊病者のよう。
何を求めさ迷ってるのか私本人にも解らない。
ただ―――
歩きたかった。
少しは涼しくなった夏の夜風。
夜の匂いは独特で、昼間には感じられない何かが存在しているようだった。
ただ、目的もなく歩いていると。
全く知らない道に出ていた。
辺りを見渡すも、異次元に迷い込んだ感覚。
見覚えのない場所に私は不安に駆られた。
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