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一旦教室を出て、座席表を確認する。虚ろな目が、生徒にとっては最高の席である窓際の後ろの席に印刷されている「木村 陽二郎」という文字を捉えた。
あたかも平常を装ってもう一度教室に入る。
「トイレでも行くか……」「他クラスの知り合いに会いに……」
この場から身を引こうとする自分を何とか食い止め、窓際の自分の席に向かった。
鞄から筆記用具を取りだし、机の中にしまう。がさがさと鞄の中を漁っては、もう一度筆箱を戻して、しばらく経ったら取り出す。その繰り返し。どうにかして、「暇」であったり「話し相手がいない」とは思われたくなかった。
俺は準備をしているから友達を作るのはまた後だ。
そんな風に周りに思わせたかった。……いや、一番騙したかったのは俺自身の気持ちかもしれない。
四回ほど筆箱をもて余したが、そろそろ空気が痛くなってきた。買ったばかりの、スポーツ用品のロゴが入った筆箱が、電灯の光に反射して静かに輝く。
ガラガラっと教室のドアを開ける音が鳴る度に、心臓を硬直させた。
それでも、一歩踏み出してみる。今動かなきゃ、完全なグループが出来てからではヤバイ。
「おはよう、ねえどこの中学から……」
「おうヨシキ!お前遅ぇーぞ!」
決心して、今まさに教室に入ってきた男子生徒に向かって声をかけた。それも大きな男子グループの誰かの声で、届かなくなる。
ああ。
ため息も出ない。ここに来るまでずっと膨らみ続けていた期待と自尊心が、ふしゅーっと音をたてて萎んでいくのが分かった。
息苦しいや。
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