アフターハプニング

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──木村君! 誰かが、俺を呼んでいる。懐かしいような、胸の奥が騒がしいような…… これは隆広じゃなくて…… 「木村君!」 透明で、しとやかな声が反響して、俺の耳に入る。 重たい目蓋が、現実に引き戻されることを拒む。しかしそれは許されない。俺は逃げちゃいけないんだ。 ゆっくりと体を起こすと、そこは見慣れた俺の部屋だった。隣には陽菜乃も座っていて、俺を覗きこんでいる。昼間にタイムトラベルしてきたような感覚だ。 「ああ……良かった、目を覚ました」 ほーっとついた陽菜乃の吐息が、妙に鮮明に聴こえた。 どこから意識が無いのか……白髪の男から逃げたあの時から、どうも記憶が薄い。 一目散に家に入って……どうしたのだろう。 「びっくりしたよ~木村君急に倒れちゃうからさ。……まあ精神的に背負うものが大きすぎたからね」 そうか、俺は倒れたのか。精神的に背負うもの……隆広のことか。隆広は死んだのか。本当に、本当に死んじゃったんだな。 暗い部屋に、一人たたずむ隆広を見た。 笑っていない隆広を見るのは、初めてだった。 「……木村君顔色悪いよ?何か食べる?」 陽菜乃の気遣いを左手で制すると、俺は盛大なあくびをした。ぼこぼこと吐き出る息が、大きな気体を出そうとして、つっかえる。
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