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暗号の書かれたページをちぎり、ポーチにしまう。他にも小さめの懐中電灯や、データを抜き取るためにUSBメモリを突っ込んだ。
「じゃあ……行ってくる」
少しだけ迷いが出た。何も触れなければ、もしかするとこのままいつも通りの日常が続いていくのかもしれない。案外隆広のことも、時間が解決してくれるのかもしれない。
怯えている自分がいるのも事実だ。それでも……俺はもう後悔したくないから、立ち向かう。
「待って、私も行く」
案の定陽菜乃がついて来ようとする。俺のことを心配してくれる人がいるのは、ありがたいことなんだな。でも──
陽菜乃の両肩に手を乗せる。
「お前は、留守番しててくれ。何なら家まで送るよ。お母さんも心配してるんじゃないか?それに、お前を……さ、傷つけたくないんだ」
変に俺の口調が優しくなった。
もう随分と傷付けてしまったのは分かってる。だからこそ、これ以上俺自身のことで陽菜乃を危険に遭わせたくなかった。
何だろうかこの感情は……
するりと手を離すと、あからさまに陽菜乃の表情が曇った。こんな顔を見てたら行きたくなくなってしまう。
俺は床に目を落としてから、陽菜乃の手を握った。そのまま一緒に部屋を出ようとしたが、思った程彼女は抵抗しなかった。
姫の手を取るように階段を下りると、母さんが夕飯の支度をしているところだった。スパイスの効いた旨い匂いがする。今日はカレーだろうか。口の中が唾液で満たされた。そういえば、昼から何も食べていない。
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