アフターハプニング

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「あら、二人とも手なんか繋いじゃってぇ~シンデレラごっこ?」 母さんが嬉しそうに近づいてくる。ちょっと鬱陶しいけど、世間からすればいい母親なんだろうな。 「丹沢を家まで送ってくるよ」 そろそろ父さんも仕事を終えて帰ってくる頃だ。その前に家を出たかった。 「あら、それなら心配ないわ!せっかく来たんだから、ひなちゃんにもうちのカレーをご馳走しようと思ってね、張り切って作ったから是非是非食べていって!」 「母さん」 突き放すような言葉になった。含んでいた氷を吐いたように、口元が硬直している。 「ごめん……行く。帰ってきたら、俺にそのカレー食べさせて。楽しみに待ってるから」 靴のかかとを踏んだまま、家を出た。後ろで「パンくらい食べていったら?」と声がした。本当は家族で──陽菜乃を含めた皆で、食卓を囲んで笑い合っていたかった。でも……ああ、また逆接だ。 家族の温かさに触れてしまったら、もう学校に乗り込む勇気は溶けてしまうだろう。それは許されなかった。 「気をつけてらっしゃい!」 背後から母さんの声が聞こえた。くぐもった内側の声ではない、外に出てまで送り出してくれたのは、俺がどんなことをしようとしているか分かっているからだろうか。……まさか。それは無いよな。 家の一人っ子である俺に、愛情を一心に注いでくれた母さん。すごく、すごく背中を押された。心強かった。 ふと涙腺が緩んだ。陽菜乃に気づかれないように、早足になる。 ついさっきまでとは比べ物にならない程軽くなった体で、俺は夜の田舎を踏み歩いた。
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