アフターレフト

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「ハァ……ッハ……」 息を切らしながら、自転車で、闇に覆われた田舎を突っ切る。 極端に街灯が少ない。俺の足元を照らすのは、自転車のライトだけだ。 晩夏の夜の、生暖かい空気の中に冷気を込めたような風が、頬を撫でる。たまに地面に転がった小石をタイヤで弾いては、バランスを崩しながら滑走した。もう長い間自転車に乗っていなかった。 車で二十分程度かかる高校までの距離。自転車だと、全力で行っても最低一時間はかかるだろう。 そろそろ街の明かりといくつもの高い建物が見えてきた。キッ、とブレーキをかけて自転車を停める。ザザザザッと、タイヤがアスファルトに削られる音が、静まった空気を震わせた。 スマートフォンは持って来なかった。出来るだけ手荷物は軽くしたかったし、今日の朝、俺がスマートフォンをつついていたのを何かしらの方法で崎本に感知された事例がある。 セキュリティ等に気づかれては取り返しがつかない。念のためそういう電子機器系統のものは一切ポーチに入れなかった。 改めてポーチの中身を確認する。懐中電灯にパスワードのメモ……ん、なんだこのもさもさした触感は。 ポーチの中にあった乾いた感触のモノを、するっと引き上げる。思ったよりもそれは長くて、精一杯腕を上げても足りなかった。 するすると出てきた紐状のそれを懐中電灯で照らす。光に照らされていたのは、これもいついれたか見当のつかない白いビニール紐だった。 まだこんなものが入ってたのか…… 四次元ポケット所持者のネコ型ロボットも驚きである。 不法投棄は嫌いだったし、あって困るものでもないので小さく折り畳んで、再びポーチにしまった。そしてまた、気の遠くなるような闇に向かってペダルを漕ぎ始める。 どれほど時間が経ったかは分からない。無心で進んでいる内に自然と明るい街の夜を通過して、瀬倉木高校へとたどり着いた。
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