アフターレフト

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夜の学校は、何だかそびえ立つ要塞のようだ。俺の前で、静かで圧倒的な存在感を放っている。 校門から左に外れた郵便局の前に、自転車を停めた。帰り際、すぐに漕ぎ出せるようにと、鍵は外したままだ。 さすがに正面突破はまずい。これだけ大きな施設なのだから、セキュリティ会社によってある程度防護網が張り巡らされているはずだ。 瀬倉木高校には、生徒らが下校した後にのみ起動する隠れ監視カメラがある。外側は校門に一つ、正面玄関に一つ、裏門に一つだ。よって塀を登れば問題ない。 何故こんな情報を知っているのか。それは一ヶ月ほど前に隆広がこんなことを言っていたからだ。 『前から気になってたけど何だろうね、この黒い穴みたいなの。黒目みたいでちょっと気持ち悪いけど……カメラか何かかな?…………あ!そうか監視カメラか~どうりで入り口とか裏門にも設置されてるわけだ』 その時は隆広の独り言として聴いていたが、今、船を進ませるために重要な風となっている。つくづく俺の記憶力には目を見張る。よくぞ覚えていてくれた俺の海馬よ。後で褒美に特大のブドウ糖をくれてやる。 地面に優しく触れて、ゆっくりと歩く。ゴツゴツと硬く冷たい塀に手を掛けた。 ここを越えたら戦いが始まる。八割は自分との戦いだ。そう思うと手を下ろしそうになったが、もうここまで来て迷う理由は無い。 俺はゆっくりと塀をよじ登り、音をたてないように膝をクッションにして着地した。 息をそっと潜める。サイレンが鳴るような気配は無い。ひとまず最初の一歩は狼に見つからなかった。
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