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「きっ、効く~……」
派手な音が鳴って気づかれたかもしれない。いや、それよりも痛い。痛いよ母ちゃん。
机に打ち付けた後、さらに床に滑り込んで摩擦を感じとった顔面に、左手を当てながら起き上がる。左頬が大きく膨らんでしまった。
「くそっ……俺の整った顔が台無しじゃねえか…………」
いやまて、キャラが違う。
衝撃が脳に響いて悪影響を及ぼしたようだ。"ナルシストホルモン"が多量に分泌されている。
「……ってそんなホルモン無いだろ!」
サッ、と五本の指をくっつけた腕を上から下へ空を切るように降り下ろす。ツッコミ。
しーんとした室内に、ここでようやく羞恥心が沸いてきたので、痛みは引いてきたようだ。ふらつきながら立ち上がると、ずれた机を元に戻して、廊下へ顔だけを出した。
見渡す廊下の先は、暗くて終わりが無いように長く見える。右も左も。でも俺は身を引こうとしない。むしろ……
「楽しんでるのか……?」
いつ見つかるか分からない恐怖。隆広のことについて、何か情報が手に入るかもしれない期待。これからどうするか、行く先の見えない不安。
全部引っくるめて、俺はこの状況を楽しんでいる。
少し前──家にいた時、俺は陽菜乃に「この気持ち、お前なら分かるだろう?」と問った。その時陽菜乃は気味の悪そうな顔をした。俺は不気味な笑顔で笑っていたそうだ。
どうやら俺にはとんだ悪癖があるらしい。
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