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その時、背後から風を感じた。振り替えると、俺が入ってきた窓が開いたままだった。
俺は窓の下に位置する一番壁際の机を、壁に密着させて、足場にした。そこに上がって窓に手を伸ばす。手のひらに感じるやんわりとした空気が、外と教室とが別の世界であるように感じさせる。
ふと、窓を隔てて外を見た。相変わらず暗くて、それでもポツリポツリとした明かりが闇を彩っている。
視線をテニスコート横の電柱に写したとき、何か黒い影をとらえた。
よーく目を凝らして見ていたが、瞬きする間に消えてしまった。
きっと気のせいだ。そう思える余裕があったのは、後から考えてもよく分からない。
何の気なしにそのまま廊下を進んだ。靴のまま歩く廊下は、いつもより固い感触で気持ち悪い。
土が落ちたらバレるかもしれないし、よっぽど靴を脱ごうかと思ったが、荷物になるし靴自体が見つかっては元も子もない。
二階へ続く階段へと上がる。なるべく足音が響かないように、ゆっくり、ゆっくり。
壁に貼ってある絵画に触れた。描かれたばかりでふにゅっと柔らかい絵の具の感触に、肩を硬直させる。
やっとの思いで二階にたどり着いた。黄泉の世界に続く階段のように、長かった気分だ。
「ふー……」
息を大きく吐いた。緊張しているのだ。顔が強張って、背中にじとっと汗をかいている。
職員室は、廊下へ出て右手の、手前から二番目に位置する教室だ。
よし。
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