アフターレフト

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息を潜めながら早足で歩を進める。職員室のドアに手を掛けた。 ガラガラガラ…… ドアに付いたタイヤが転がる音。心臓が脈を打つ音。色んな音が俺をかき混ぜた。 最小限に開けたドアの隙間から職員室に入る。閉める時は緊張のあまり勢いで閉めてしまった。 少しの沈黙──というより静寂。 『右から二番目、手前から三番目』 隆広から受け取ったメッセージを、頭の中で反芻させる。おそらくは、この机が何番目に位置するかをたどればよいのだろう。 職員室を、頭の中で上空から見下ろす。右に二つ、そこから前に三つ、陽二郎というコマを進めた。 たどり着いた席には一台のパソコンがあった。妙に整頓された机。間違いない。我らが担任、崎本の席だ。 震える手で起動ボタンを押す。迷っている暇は無い。黒く塗りつぶされた画面と世界が、少しずつ明るくなっていく。 が、ここで突然あるメッセージが液晶画面に標示された。 『パスワードを入力してください』 来た…………! パスワード。そんなものは簡単に生徒が知り得るものではない。だがパスワードが存在するのは当たり前と言えば当たり前だ。情報工学担当の教員であるために、重要な仕事も任されているに違いない。 だが全て、隆広が残してくれていた。
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