19人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
息を潜めながら早足で歩を進める。職員室のドアに手を掛けた。
ガラガラガラ……
ドアに付いたタイヤが転がる音。心臓が脈を打つ音。色んな音が俺をかき混ぜた。
最小限に開けたドアの隙間から職員室に入る。閉める時は緊張のあまり勢いで閉めてしまった。
少しの沈黙──というより静寂。
『右から二番目、手前から三番目』
隆広から受け取ったメッセージを、頭の中で反芻させる。おそらくは、この机が何番目に位置するかをたどればよいのだろう。
職員室を、頭の中で上空から見下ろす。右に二つ、そこから前に三つ、陽二郎というコマを進めた。
たどり着いた席には一台のパソコンがあった。妙に整頓された机。間違いない。我らが担任、崎本の席だ。
震える手で起動ボタンを押す。迷っている暇は無い。黒く塗りつぶされた画面と世界が、少しずつ明るくなっていく。
が、ここで突然あるメッセージが液晶画面に標示された。
『パスワードを入力してください』
来た…………!
パスワード。そんなものは簡単に生徒が知り得るものではない。だがパスワードが存在するのは当たり前と言えば当たり前だ。情報工学担当の教員であるために、重要な仕事も任されているに違いない。
だが全て、隆広が残してくれていた。
最初のコメントを投稿しよう!