アフターレフト

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ガシッと肩を掴まれる。教室で掴まれた時と同じで、強い。 崎本の懐中電灯が俺の顔に近づいてくる。まずい、このままじゃ俺の正体がバレてしまう……! 俺は渾身の力で首をねじって、手首に噛みついた。 「な……よせ、効かんぞ」 今だ。 体を反転させて、思い切り腹部に蹴りを入れた。あまりヒットしなかったが、それでも僅かな隙をついて職員室の外へ駆け出した。 「待て!」 後ろから崎本の声が聞こえる。階段を転がるようにかけ降りた。 勢いでそのまま直進してしまったが、ここで自転車を留めた校門前と反対側に走っていることに気がついた。 ヤッベ…… 崎本はもう既に階段から降りきってこちらに向かっている。引き返そうにも引き返せない。 と、ここで俺はふと思い立ってポーチから白いビニール紐を取り出した。 走りながら、胸の前で両手をつかってピンピンと引き伸ばしてみる。よし、これなら。 廊下を直角に曲がってすぐ、俺は廊下前方の右隅に消火器を見つけると、ビニール紐で輪をつくって消火器に掛けた。そのまま息を潜めながら、俺は消火器と真向かいの位置にしゃがみこみ、手に握ったビニール紐を床から十数センチ浮かせて待機する。 パタパタと足音が曲がり角に差し掛かる。来た。思い切り、手に巻き付けたビニール紐を握る。 「ぬおぁっ!!」 崎本が、ビニール紐に足を引っ掛からせて、宙に浮く。勢いそのまま床に滑り込んだ。 よっしゃ!成功した! 俺は思わぬ活躍をしたビニール紐を投げ捨て、床に倒れこんだ崎本に背を向け走り出した。 目指すは校門。汗だくになりながら暗闇の廊下を走る。
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