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「木村、少し話がある。こっちへ来い」
朝のホームルームが終わってすぐ、俺は崎本に呼び出された。
もしや昨日学校に潜入したことがバレたのだろうか。……俺は直接崎本に顔を見られた覚えは無い。
それでも背中に冷や汗をかきながら、崎本のそばへ駆け寄った。肩に手をポン、と置かれる。そのまま握り潰されるのかと思ったが、崎本は険しい同情の顔をしていた。
「お前を"生徒指導室"に呼ぶよう言われている。…………行ってこい」
生徒指導室。その名前を聞いただけで背筋が凍るように冷たくなった。
俺のクラスにも生徒指導室に呼ばれた輩がいた。そこから帰ってきた者の表情は、思い出すだけでも悪寒が走る。
生気を失い、目にはまるで光が無い。しかしクラスメイトの誰かが話しかけると、途端に明るく「大丈夫」だと言うのだ。やんちゃだった彼は、その日を境に大人しくなった。
生徒の間でも噂になっているが、何が行われたか知る者も語る者もいない。アフターサークル上では「幻術にでもかけられたんじゃないのか」という突拍子もない意見も出ている。
幻術──そう、その言葉がまさにて適しているようなあの豹変ぶり。
そこに俺が行かなくてはならなくなったのだ。嫌だ。体が拒むが、それ以上に拒むことで事態が悪化することをを拒んだ。
既に俺は幻術にかかっているのかもしれない。
たくさんのことを考えているうちに、ある部屋の前に立った。【生徒指導室】という看板が、歪んで見える。
『木村君か、入りなさい』
入り口の前に立っただけなのに、中から俺の名前を呼ばれた。お陰で深呼吸をする間もなく、その部屋に足を踏み込む羽目になった。
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