アフターインベーション

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シラはニターッと笑った。 『本当かな?……でもまあ嘘はついてないみたいだね。じゃあ次』 次も、英語の教科書に載っているような素朴な問なのだろうか。シラの意図が掴めない。それともこれは準備運動といったところか。 『君は昨日の夜、何をしてた?』 ゆったりとしたリズムを刻んでいた心臓が、途端に脈拍数を上げた。  ・・・・・・・・・・ 『何のためにここへ来た?』 シラの語気が静かに荒くなる。……そうだ、似ている、あの時と。隆広の家に行ったとき、黒のセダンに乗っていたあの白髪の男と。怒り方がどこか似ている。年齢も二十代、同じくらいに見える。 油断させておいて、一気に奈落に突き落とす。巧みだ。実に巧みな話術だ。生徒指導室に入った者たちも、この語り口に精神をやられたのだろう。 いくらなんでもやりすきではないか。親に知れ渡ったらただじゃ済まないが、その辺りの口止めもこの男には容易いことなのかもしれない。 現に生徒指導室のことを恐れる生徒らがいても、それを親に言ったとか、怒った保護者が学校に押し掛けてきたとかいう噂は聞いたことがない。大人しく"普通に"過ごしていれば、何も危害は降りかかって来ないのだ。 俺は冷静さをかいた。言い訳も、この場を切り抜ける方法も分からない。正しいかどうかも分からない『ウソが通用しない』という言葉が、俺を締め付けた。 「きっ……昨日は……」 出そうとしても言葉が出ない。ウソを吐こうとするが怖れて出ない。 「さきも……との……情報……」 真実を語ろうとする舌を軽く噛んだ。痛みに意識が囚われている隙に、俺は賭けに出た。 「昨日の夜は……ずっと家で寝ていました。母と友達がその証人です」
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