アフターインベーション

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もがいている内にシラはノートパソコンと共に姿を消していた。苦し紛れに取っ手のようなものを掴んだ。だがドアは開かない。鍵が閉められている。 断続的な痛みに吐き気がしてきた。二の腕をつねってどうにか気を紛らわそうとする。 と、ここで部屋全体が液晶画面に切り替わった。六面全て。真っ白な画面に写っていたのは……何やら黒い六角形のようなモノ。 それには血眼になった二つの眼が付いており、まるで意思を持ったかのように不敵な笑みをこぼしている。 不思議だ。この六角形の物体を見ていると自然に、痛みがすうーっと、消えていく。 社会の波に揉まれ、一人疲れて帰った夜に、ふかふかの布団に飛び込む。あまりにも心地よくて、体勢を変えることなくそのまま深い眠りにつく。 そんな気持ちだ。今俺は、身動き一つ取ろうとせずに、快楽へ身を委ねようとしている。 『ククククク……クルシイカ、コチラヘコイ……』 脳内に機械的な音が響いた。シラの声色とは少し違った、幾重にも重った重低音。誰のものかも選別出来ない。聴いているだけで不快感を煽るその声が、俺を快楽へと導いていく。 ああ……もういっそこのまま………… そっと、体を傾けた。しかし、しばらくして異変に気づく。 ………ん? 体が楽になっていくのに、頭の中が気持ち悪い。誰かに記憶を漁られているみたいで落ち着かない。 黒い六角形がニタリと笑った。同時に何か大切な思い出が、俺の中から抜き取られていく。 「やめ…………」 俺は反射的に六角形から目をそらした。同時に激しい耳鳴りが戻ってくる。 あいつは……人の記憶を抜き取ることが出来るのか……?人を洗脳することが出来るのか? 有り得ない。でも…………もしそうだとすれば。
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