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「隆広の存在が……みんなの記憶から消えていたのは……コイツの……ぐっ……」
まさかとは思う。そんなことが出来るのかと。しかし先程味わった脳をまさぐられているような感触。まるで俺の記憶の中から不都合な情報を抜き出そうとしているような。
あの日──隆広の存在が皆の記憶から消えたあの日、俺は二日間ASに触れることなく学校に行った。俺と、他のクラスメイトたちの違いは多分それくらいだ。もしこの黒い六角形がASを通して生徒全体に配信されていたとしたら。記憶操作が行われたのではないだろうか。
と、急に辺りがしんと静まり、世界に対する激しい嫌悪感が消えていった。
あれ、耳鳴りが……止まった……?
『ククククククク……』
「ぬぁっ!」
部屋全体、六面の液晶をつたって嫌でも視界に入り込んでくる。首を降ったり、体を回して逃れようとしても、黒い六角形のスピードの方が何枚も上手だ。
「くそっ!」
思いきりかぶりを振って、目を閉じた。
視界に何も映らないように、手のひらで顔を覆った。
もしも……もしも本当にクラスメイトの記憶がアフターサークルを使って書き換えられていたとしたら。
『カンガエナクテ イイ ハヤク ラクニ ナレ』
目を閉じているはずなのに、徐々に瞼の裏に浮かび上がってくる黒い六角形。驚いて体を硬直させた。
目を閉じても意味がないのか……?一体なんなんだコイツは?
反らしても反らしても視界に入り込んでくる。汗が飛び散る。滲むだけだった汗が水滴となって、頬を、背中を、脚をつたう。
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