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催し──何度も頭に浮かんだ言葉。これがどんなものなのかも、何の意味を持っているのかも分からない。でも、確信できる。何か大きなものが、動こうとしている。
「先生、それってどの順位ですか?先月のランキング?」
学級委員の坂本春馬が問いかける。彼は人望も熱く、いわゆる"上"のグループにいる存在だ。顔立ちも悪くないし、何より学級委員だからといって規律を堅く守ることもない。適度に緩い。男子からも女子からも頼られている。
彼を見る度、「いいなー」と言葉が漏れそうになる。同時に、俺だって、と見栄を張る。俺はなんて未練がましい人間なのだろうか。きっと失恋したらストーカーになるタイプだ。
「順位についてはこれから配る『総合順位』を見て確認しろ。入学してから昨日まで、全てのポイントを総合した上での順位だ。累積制ではないから、学年による差は出ない」
ふーん、と、聞いたくせに坂本はさほど興味も無い様に答えた。彼はきっと、自らの順位を心配することもないのだろう。俺を含めて心当たりのある奴らは、途端に顔をしかめていた。
──変わりたいんじゃないの?本当は。
自分にとっては心苦しい言葉が、何故か陽菜乃の声で再生された。
窓際の一番後ろ、生徒にとって最高の席でぼーっとしていると、いつの間にか崎本が隣にいて、一枚の紙を渡してきた。
霞んだ茶色の再生紙だった。
裏返しのまま机に突っ伏されたそれをめくると、パサッと乾いた音がした。黒い活字で印刷された、四桁の数字が目に飛び込む。
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『一年一組五番 木村陽二郎』
*総合順位──8776位
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必要事項を並べただけの、端的な作りだった。
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