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「ここを出たって行くところなんかないだろう?」
声をかけたが返事はなかった。
きちんと片付いたキッチン。
ここでローと小犬は何をしたのだろう。嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。
食べてくれる気になったのだろうか。ローが細い刃の包丁を取り出す。
まな板の上に腕が置かれて、振り上げた包丁が真っ直ぐに刺さる。
一回、二回。
わたしは悲鳴をあげた。
大量の血がローの腕から噴き出す。ローの笑う声が聞こえた。
なんてことだ。
腕に刺した包丁が首に当てられる。
後をついて来たパトリックが飛び込んで来て、瞬時に状況を判断してローに飛びかかった。
わたしはローに駆け寄ると、回復の魔法を詠唱し始めた。
「やめろ。ほっとけ」
ローの声が聞こえるが、やめてたまるものか。
この傷ではただの回復では、傷同士が癒着して、腕が使い物にならなくなるかもしれない。
この短い時間なら、時間を巻き戻す呪文がいい。詠唱に時間がかかり、大量の魔力を消費するが、ローの腕は元に戻らないといけない。いや、戻してみせる。
魔法陣がローの腕の上に浮かぶ。
いける。魔力がじわじわと吸われ始める。
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