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わたしはパトリックを睨んだ。
パトリックは自分の懐から白いハンカチを取り出すと、わたしの手に巻き始めた。
「メリドウェン。自分の治癒すら出来なくなるなど、魔法使いとしては失格だ。戦場ではお前たちが俺たちの砦なのだから。」
「解っている」
だが、死にたがる狼を救う為ならば、自分は悪魔に魂を売ることすら厭わないだろう。
ハンカチに包まれた手をぎゅっと握る。切れた部分に痛みが走った。
そっと開いた手で、眠っている狼の頬に残る飛んだ血の跡を拭う。その頬は暖かかった。静かなその吐息を指先に感じた。狼は生きている。
気が緩んだせいなのか、視界が涙に歪んだ。
これは傷の痛みのせいだ。
それを言い訳にして、わたしは涙を零し続けた。
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