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初めてその狼を見たのは、その年の入学テストの時だった。
「良いのはいるか?パトリック?」
わたしは腰まで延びた真っ直ぐな銀色の髪を肩へと払うと、薄い水色の瞳を会場に向けた。
「……メリドウェンか」
鋭い、刺すような青い瞳がわたしを一瞥する。
短く切られた金の髪が揺れて会場を指す。
「間違いなくあれだな。白い方」
東の国の服を身につけた黒髪の男。くせのある、いかにも適当に切られた髪が顔にかかっている。
獣の一族らしく、頭には耳がある。ひょこっと動いた耳は形状から行くと、狼のようだ。白くて軽そうな道着を着ていて、半ば空いた胸から無駄のない筋肉が覗いていた。
太古の昔から大陸の東を治めるオオカミ族は身体能力が高く、優秀な戦士を輩出している。
オオカミ族の純血に近いものほど、優秀で有能な戦士となると聞く。
それに、オオカミ族には多くのロマンスが伝えられていた。
運命の相手とつがい、世界を救うとか、運命の相手を助ける為、死地に赴き奪還するとか。
そして、その情熱的な性質故に数を減らし、今は東方に小国を残すに留まってしまっていた。
開始の合図だ。
剣を握った相手に無手で緩やかに立っている姿には、殺気のかけらも感じられない。
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