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剣士が剣を構えると、トンとその細い体が跳ねる。その足が地面につくと同時にゆらりと身体が揺れて、目にも止まらぬ速さで剣の持ち手の反対側に回り込み、低く這いつくばった形から脚を払う。
剣士が大きく仰け反ると、正確に剣を持つ手が裸足の脚で弾かれ、剣が宙に舞う。
狼は空中で剣をつかむと、倒れた剣士の首に直角に当てる。
「そこまで!」
速い。
そして、鮮やかとしか言えない滑らかな動き。
会場からどよめきと歓声があがる。狼はちょっとビクッとして、それから誇らしげに微笑んだ。
その姿にわたしの身体から汗が噴き出す。
薔薇の匂いがする。
香水や干した花びらではなく、咲いたばかりの薔薇の匂い。
欲情した時のわたしの体臭だ。
それは微かな匂いだから、パトリックには気づかれないだろう。
そう思いながら、一歩距離をあける。
狼はどんな目の色をしているんだろう。
わたしはパトリックに気付かれないように、呪文を唱えた。
ふわりと精神だけを狼の前に飛ばす。
溶けた銀の色。
煌めく銀に晴れやかな笑顔。
健康的な色の頬がほんの少し赤らんでいる。
くせのある髪がその回りをふんわりと覆っていた。
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