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ローが腕の中から消えたのと、パトリックが騒々しく部屋に入って来たのはどっちが早かったのだろう。
「メリー!大変……」
急に身体が軽くなって、腕の中にいたローがパトリックの側で脚を振り上げていた。後ろ向きから回転しながら鞭のように振り出された脚が、パトリックの首に向けて音もなく打ち降ろされた。
びっと足が掠る音を立てながら、間一髪でパトリックが後ろに飛びずさる。
ローは勢いのまま地面にしゃがみ込むと、獣のように唸り声をあげた。そして、そのままの体制から足を振り出すと足払いをした。
避ける事の出来なかったパトリックが倒れて、すかさずローが飛びかかる。
パトリックが両足を持ち上げると、ローの両肩を蹴って一撃を避けた。
飛ばされたローが両手をついてくるりと身体を回転させると、床の上にうずくまった。ぎらぎらと光る銀色の瞳は完全に正気を失っている。伏せられた耳、剥き出された歯の間から低い唸り声がする。
「何をした」
ローから目を離さずにパトリックが立ち上がる。乱れた濃い色の金の髪の下の青い瞳が怒りにすがめられる。
「狼に何をした……メリー!」
わたしの名を聞いた瞬間、ローの耳がくるりと回って前側に倒れる。
跳躍する身体がしなって、パトリックに打ちかかった。
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