第1話

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夜。 バルコニーの窓を開けると夜風が優しく頬を撫でた。 バルコニーは暗闇には包まれていなかった。 私は眠りについていることになっているので、灯りはつけていない。 今夜は満月。 光となっているそれは黄金のよう。 見とれてしまう。 「姫様、足元にお気を付け下さい」 「!!」 カツン、と鉄の音と低いテノールの聞いた声が響いた。 バルコニーに人がいる。 もちろんこの部屋にはクレンドと父様と母様しか入れない。 「誰ですの?」 「噂にも聞いてないのか?捕らわれの姫様?」 ジリジリ。 迫り来る謎の男。 「満月の夜、吸血鬼が現れますよ…ってね」 「なっ!!?」 クイッ、と顎を掬われ、バルコニーの端に追い込まれる。 甘ったるい香水の匂いが鼻を擽った。 残念ながら逃げ道は塞がれた。 吸血鬼に噛まれると死ぬ… そんな話、おとぎ話と思っていた。 「さて」 首に男の唇が当たった。 柔らかくて味わったことのない感覚。 「味はいかがかな?」 鋭い歯が頸動脈に触れた。 もし吸われれば、私は自由になれるのかしら。 ならば… 「噛んで下さいませんか」
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