第1話

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そう言うと、吸血鬼の男は驚いた様子を見せた。 「もう、疲れました。血を差し上げます…だから」 "殺して下さいませんか?" 挑発するように私は微笑む。 今日は風が強い。 私の腰までのブラウンの髪と吸血鬼男のマントが揺れる。 「…面白い」 吸血鬼男はカツン、カツンと靴を鳴り響かせて私から離れる。 バルコニーの手すりの上に座り、煙管を吸い始めた。 煙に少し噎せる。 「城内は禁煙ですわ」 「そうかい」 低く喉で笑われた。 「それと、」 ふー…と煙管の煙を吐き出すとニタリ、と笑った。 「吸血鬼に吸われぐらいで死にはしねェ」 毒蛇じゃあるめぇし。 付け足すように言った。 「そう…そうですわよね」 正直、失望した。 「そうがっかりするな」 表情に出ていたらしい。 ポンポン、と頭を撫でられた。 「代わりにこれ戴く」 「…!?」 チュッ、とリップ音が響いた。 顔が火がついたように熱い。 「じゃあな、姫様」 軽々とバルコニーの手すりに飛び乗ると、軽くお辞儀をした。 胸の高鳴りが煩い。 熱を帯びているようだ。 「あの!」 「何だ?」 「私の名はミレアです!!明日の夜、私の名を覚えていれば…」 何故か声が震える。 「もう一度…ここに来て下さい、吸血鬼さん」 吸血鬼男は私の手を取ると、甲に軽いキスをした 「わかったよ、ミレア」 妖艶な笑みは私の全ての神経を麻痺させた。 「あと、俺の名はキルトだ。覚えておくように」 言った直後、高さ10メートルほどから飛び降りた。 だが見下ろすともう彼の姿はなかった。
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