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そう言うと、吸血鬼の男は驚いた様子を見せた。
「もう、疲れました。血を差し上げます…だから」
"殺して下さいませんか?"
挑発するように私は微笑む。
今日は風が強い。
私の腰までのブラウンの髪と吸血鬼男のマントが揺れる。
「…面白い」
吸血鬼男はカツン、カツンと靴を鳴り響かせて私から離れる。
バルコニーの手すりの上に座り、煙管を吸い始めた。
煙に少し噎せる。
「城内は禁煙ですわ」
「そうかい」
低く喉で笑われた。
「それと、」
ふー…と煙管の煙を吐き出すとニタリ、と笑った。
「吸血鬼に吸われぐらいで死にはしねェ」
毒蛇じゃあるめぇし。
付け足すように言った。
「そう…そうですわよね」
正直、失望した。
「そうがっかりするな」
表情に出ていたらしい。
ポンポン、と頭を撫でられた。
「代わりにこれ戴く」
「…!?」
チュッ、とリップ音が響いた。
顔が火がついたように熱い。
「じゃあな、姫様」
軽々とバルコニーの手すりに飛び乗ると、軽くお辞儀をした。
胸の高鳴りが煩い。
熱を帯びているようだ。
「あの!」
「何だ?」
「私の名はミレアです!!明日の夜、私の名を覚えていれば…」
何故か声が震える。
「もう一度…ここに来て下さい、吸血鬼さん」
吸血鬼男は私の手を取ると、甲に軽いキスをした
「わかったよ、ミレア」
妖艶な笑みは私の全ての神経を麻痺させた。
「あと、俺の名はキルトだ。覚えておくように」
言った直後、高さ10メートルほどから飛び降りた。
だが見下ろすともう彼の姿はなかった。
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