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僕は階段を登る。
今はもう使われなくなった。
昔どこかの不動産会社が姿を消して以来だれからも必要とされなくなった廃ビル。
必要とされず忘れられていく、だれからも気にとめられず
――――だれにも気付かれず
(まるで僕みたいだ)
ふとそんなことを思った。
会社をクビになって、妻子には逃げられて、この不況の中再就職なんてできるはずもなくて、両親はすでにこの世から去っている、頼るべき相手なんていない、貯金なんてもう底をついている。
(―――もう生きていたくない)
そう僕は死ぬつもりだ。
このビルの屋上から飛び降りて、僕が死んだってだれも悲しまない。
いや、みんな僕のことなんて忘れているだろう。
ここで死んでだれにも悲しまれずに死んでゆくのだ。
今は4階だからあと少しか・・・
もう少し、そう自分に言って僕はまた一歩を踏み出そうと・・・
「なにをしているの?」
あまりにもはっきりとまるで耳元で話しかけられたような透き通った声が聞こえた。
「!!」
咄嗟に否ほとんど反射的に僕は後ろを振り向いた。
この廃ビルに電気なんてついてるはずもないので辺りは真っ暗のはずなのだがその子供は―――その少女はあまりにもむしろ以上と言っていいぐらいにはっきりと僕の視界に入ってきた。
(う、わぁ・・・)
ここには不釣り合いすぎるぐらいの美少女がいた。
いやもう、ほんとになんでいんの?ってぐらいの
息をのむ美しさっていう言葉があるがこの少女はそれをそのまま表しているといっていい
実際に息をのんだし
真っ白なワンピースに白のサンダルを履いている。
その衣服には汚れなんてすこしもなくてただこちらを向いてたたずむ少女
少女は少し不思議そうに首をかしげて(それも絵になっている。美少女は得だ)
「なにをしているの?って聞いてるんだけど・・・」
再度、僕に聞いてきた。
「・・・」
なにをと言われても困る。
まさか自殺しようとしています、なんて言えるわけもないし
「ちょっと屋上で星を見ようとしているんだよ」
咄嗟についた嘘、まあでもこれで納得してくれたら
「ふうん、私はてっきり自殺するのかとおもってたけど」
普通にまるでごくごく当たり前のことを言っているかのようにそう彼女は呟いた。
いや、それよりも、
「な、なにを・・・・・」
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