たった1度の I LOVE YOU

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「おい、あれ……」 居間のソファーに腰掛けて、新聞を広げて失態に気付く。 いつも見えているはずの文字がかすんでいる。 「何?」 私の呼び声に気付いた娘が食器を洗う手を止めてやってきた。 「あれ、どこにやったかな?」 「あれって何?」 「あれだよあれ」 前まではこれで全部用が済んでいたのに、もうそれも通用しない。 「あれじゃわからないわよ」 「もういい」 最近こんなやりとりも増えてちょっと憂鬱になり始めている。 ため息を吐きつつ新聞を読むのを諦めて、散歩に出ることにした。 身なりを整えるべく洗面所に向かうと、洗面台の前に私のめがね。 「ここに置いてたのか」 朝顔を洗ったときに置き忘れたらしい。 だけどもう新聞を読みに戻る気にもなれないから、そのまま散歩に出ることにした。 「散歩に行って来る」 「は~い」 玄関を出るとペットのゴンタが尻尾を振りながら喜んで走ってきた。 「よしよし、俺を見て喜ぶのはお前だけか」 .
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