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ジギーという名前は聞いたことがあった。だがそれを空で思い出すことはない。思い出したということはその瞬間に迷いが生まれる。そしてその瞬間、もしそいつがジギーでジギーが噂通りの実力ならば、撃たれるだろう。
俺はジギーに関して思い出したわけではない。ただ、別の感情を思い出した。
トリガを引く。光が敵に吸い込まれ、敵を破壊する。キャノピィが赤く染まったのが一瞬見えた。
離脱して上昇に転じる。すぐ周りには敵はいない。6機が混戦しているのが見えた。記憶が正しければ4機が味方。別の方向に2機の軌跡を見つける。6機の方は3、3だと判断。
どちらも数の上では互角。半ロールして2機の方へ倒れる。フルスロットル。左の翼端が雲を引いた。低い唸りがコックピットも揺らす。
後ろに着いているのが敵だった。最新のシュバルベだ。俺たちのスパルナと最高速度が100違う。分が悪い。しかしそれはこちらが新エンジンを開発するまで変わらない。
舌打ちはしない。まっすぐ狙うようにダイブ。直線的に、明らかに撃ち抜こうとしているかのように。いくら性能が違うとは言え、逃げるスパルナを追うシュバルベは重力を味方にした俺より遅い。
スロットル中スロー。トリガを引こうとした瞬間にそいつは反転した。腕がいいと判断。シンプルにそれを追う。逃げていたスパルナは瞬間インメルマンターンを入れた。それを見て彼女はサエイだと気付いた。
予想に反してそいつは速度をあげない。
右に左にターン。
嫌な感じにタイミングをずらしてくる。後ろを取っているのにトリガを引けない。
相手は急旋回を入れてきた。
スパイラルで追う。
ナイフエッジに切り替わる。
エルロンを切って上昇を誘う。
スロットルハイ。
しかし左に急ターン。
エルロンを逆に切ってエレベータを思い切り引く。
頭から血が抜ける。
揺れるのを我慢する。
一瞬視界が暗くなった。
否、一瞬日陰になったのだ。
太陽の中にサエイがいた。相手の死角を的確に突こうとする、彼女の飛び方。
一瞬過った嫌な予感。
そいつは機首を上げた。
更にエルロンを逆に切ってエレベータを引く。
スパルナのエンジンパワーはシュバルベに勝てない。
サエイを誘っていたのだ、と気づいた時には遅かった。
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