言葉の代わりに

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彼の笑顔は私に向けてではなく本に向けられている。 私は本が好きだ。 同時に本が憎い。 自然と本を持つ手に力が入る。 彼がここにいるのは……こうして仕事を手伝ってくれるのはあくまでも本のため…… 私ではなく……本のため…… 握られた本のカバーがくしゃりと音をたてる。 私の思いは届かない。 彼は私を思うことはない。 悔しさが、憎しみが滴となって本に落ちた。 でも……それでも…… 私は目を擦り、鞄から一つの栞を取り出した。 四つ葉のクローバーを挟んで作ったお手製の栞。 私なりのプレゼントでありラブレターでもある。 いつか渡そうといつも持ち歩いていた。 私は栞を本に挟んだ。 やっぱり私は本が好きだ。 そして、本が好きな彼がもっと好きだ。
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