第1話

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ルームミラーをちらりと見ながら大口を開けて欠伸をする 朝早く出て夜遅い帰宅にも慣れているはずなのに、今日はなんだか無性に眠くてたまらないのだ きっと原因は昨夜見た不気味な夢のせいなんだろうと察しはついていた 再びルームミラーへ目を配る 後ろの車のライトが眩しい 眠くて閉じてしまわないようにしている瞼を、それによって閉ざされそうになる すでに怒りすらおぼえないほどのぼんやりとした意識でその光の先に目を向けてしまう その時ふわりと甘い香りが漂った 視線をルームミラーから助手席へやると見知らぬ女がいる その女が誰なのか、なぜそこに居るのかはわからないが、なんだか懐かしいような雰囲気があり、何より嫌な感じがしなかった そっと手を伸ばしてみると驚くことに女に触れることができる 微笑む女に笑顔を返し、女の手を軽く握った どこか車の停められそうな所へ行き話がしたいと思い車を走らせる なんだか嬉しいようなウキウキしたような気持ちになっている自分に気付く こんな気持ちはいつ以来だろう 煩わしかった後ろの車のライトなどすでに、2人の気持ちを高ぶらせるネオンの様にすら思える 車を海の見える公園の駐車場へ滑り込ませる 夜は海は見えないが、代わりに星が見えて抜群のシチュエーションだろう 車を停めると握った女の手に力を込め振り向く 「ねぇ、君って…」 そこに居たのは変わり果てた姿の先ほどの女だった あらゆる所を刺されたと思われる全身から滲み出る血と、喉元に刺さったままの刃物 その目は何かを訴えるようにこちらを見ている そうだ、思い出した これは夢で見た風景だ そしてこの女は…… 再びどこかの車のライトが辺りを包む とにかく逃げ出したかった 状況が不利なのよりもともかく、死体に見つめられるのが気分が悪かった 俺が悪いのか?俺が何したって言うんだよ!! ライトに照らされ光る外界へ飛び出すと、そこは見覚えのある部屋だった 汗びっしょりの寝間着姿でベッドから飛び起きた姿勢の自分の状況が掴めない いつ部屋へ帰ってきた?さっきのは夢? 女の手を握っていた手を開くと、手には刃物を持っていた感触と、固くて柔らかいものをメッタ刺しにした感覚が残っている そんなことあるわけがない 鳴り止まない鼓動を抑えつけながら言い聞かせる だって、俺は彼女を…!! 『愛してた?』 ふわりと辺りに甘い香りが漂う
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