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『一節 迷樹』
◇◆◇
迷ってしまったのかもしれない。
そう思い始めた時には、既に取り返しがつかないほどフィンは森の奥に足を踏み入れてしまっていた。
視界を埋める草や木。光の届かない薄暗い緑の空間。変わらない景色は、同じ場所を何度も繰り返し通っているよう。
錯覚かもしれないし、本当にそうなのかもしれない。
まともに判断が出来なくなるほど、この森は人の感覚を狂わせた。
最初、外でこの森を見つけたときに獣道が見えたから、ぐるりと遠回りの道を行くよりずっと早く先に進めると思ったのに。
ふと、ひとつ試すように持っていたワンドを地面に立ててみる。
古いコートを着た、少年そのものの体躯と同じ大きさのワンドを手で支えながら屈み込んで――パッと手を離す。
ジャラッと飾りの音を立てて、ワンドは右に倒れた。
拾って、もう一度。
今度は左に頭を向けて倒れた。
さらにもう一度。
「痛っ」
ぽこんっと頭に当たって、ワンドはズルズルと滑るように地面へ転がった。
フードを被っていても鈍い痛みが広がる頭を押さえれば、フィンはようやく現状を認める気になれた。
「……本当に迷ったっぽい」
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