【chapter1.迷ヒ森】

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   転がったワンドを拾い直し、立ち上がってフィンが困ったように溜め息をつけば、すぐそばで笑う声がした。 「だから言ったじゃないですか。迷ってもアタシは知りませんよって。本当、ご主人様は馬鹿やらないと何にも理解出来ないんですからねぇ?」  可愛らしい声で酷いことを言ったのは、マントを羽織った小さな獣人のクリーチャーだった。  成人女性のような体型に、紫の毛色をした大きな獣耳と尻尾が生えていて、猫にも少し似ている。大きさもちょうどそれくらいだ。 「でも小さな森だから、平気かなって。ミリだって最初そう言ったじゃない」  羽もないのに浮遊しているクリーチャーをミリと呼んで、フィンが言い訳のように言えば、ミリは胸の鈴をリンと鳴らして文句あり気に指差してきた。 「だからですよ。嗚呼、こんな森で迷って足止めくらうなんて、ツイてない。ご主人様についてくと、ろくな事がないんですよね」 「じゃあ、一人でどっか行っちゃえば」  ミリの悲観など無関心に言い返して、フィンは立ち上がると、ショルダーバッグの中から取り出した地図を目の前に広げた。  薄い紅茶色の厚紙には、イミテリアスという名の大陸の地図が描かれている。 「地図に獣道は描かれてませんよ?」  空中に寝そべりながら、ミリもフィンの肩越しに地図を覗いて、からかって言った。
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