【chapter1.迷ヒ森】

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   酷い言われように、フィンは俯いてぼそりと呟く。 「それに別に……馬鹿でドジだからじゃないし」 「…………」  ミリは大きな瞳でフィンを上から眺め下ろすと、軽やかに空中を蹴っておりた。  コートを着たフィンの肩に、半分乗りかかるように手をついて、耳元で囁く。 「でもアタシは、行く先々の村や町が水害にみまわれたり、盗賊に襲われたりするのも、なかなかスリリングな旅だと思えますよ。例え何度ご主人様の災厄に巻き込まれようとも、目的を果たす最後まで、アタシはご主人様について行きますから」  擦り寄せてくるミリの大きな獣耳がフードの隙間に入り、フサフサと頬に触れてくすぐったい。  フィンは首を少しミリへと傾けて頷いた。 「じゃないと困る」 「……せめてもっと愛想良く言えないんですか。そんな仏頂面で言われても。ほら、笑顔でにーっこり可愛いらしく――っ!?」  突然の振動に、ガクンとミリがフィンの肩からずり落ちた。  フィンが急に足を止めたからだと知れば、ミリは目を丸くして驚いたと騒ぎ立てる。 「きゅっ、急に止まらないで下さいな! 危ないじゃないですかっ」 「何かいる」 「え?」  しかしフィンはミリの事など構わずに、琥珀色の瞳でじっと森の奥を見つめて短く言った。
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