【chapter1.迷ヒ森】

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   〈メタルインセクト〉の一匹が、フィンの腕にしがみつく。  その脚は体を覆う甲殻と同じで鉄のように固く、鋭く刃物のように狙ったものを切り裂く。  故に武器の材料にもなる〈メタルインセクト〉の特性を詳知していたフィンは、コートごと肌を裂かれる前に腕を大きくあげて一匹を振り落とした。 「くっ」  しかし大群は途切れることなく群がって来る。フィンは飛び退いて、振りかぶった勢いのまま、さらにワンドで空を叩いた。 「〈火球ーファイアボールー〉」  呟くように唱えられた呪文ースペルーが、瞬時に展開された魔法陣に刻まれる。  同時に炎が収束し、いくつもの火球となって、地を這う〈メタルインセクト〉の大群へと降り注いだ。  しかし、その炎の塊は、鉄のような甲殻によって弾かれてしまう。 「アチッ、アチチ!」  弾かれ、飛び散った火片が当たったりでもしたのか、木の影からミリの悲鳴が聞こえてきた。身を振って炎を払おうとする彼女の姿を、フィンは横目で見て、ぽつりと言う。 「森とミリは燃やせても、虫は燃やせないか……」 「アタシは燃やさないで下さい!」 「ワザとじゃないよ」  叱られたせいと、それからどうしたものかと小さく息をついた。
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