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「世の中には、生きたくても生きられない人も居る…。せっかくの命、無駄にしちゃダメだよ」
「…も………に」
俯いた彼女が何かを呟く
「え?」
「何も―――。何も知らないくせにっ!」
顔を上げた彼女の瞳からは、涙が溢(あふ)れていた
「私の気持ち、何一つ知らないくせに!そんな説教染みたこと、言わないでっ!」
足元に落ちていた鞄を拾い上げ、勢いよく駆け出す
彼女の姿は、あっという間に見えなくなってしまった
他人の目には、街中で大喧嘩したカップルのように映っていたかもしれない
「高梨…莉子………か」
もう一度、名前を呟く
ただの人助けだと―――思いたかったんだけどな
人助けだとか…そんな単純なことじゃ済まなくなるなんて
この時の俺には、気付いていなかった
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