第1話「噂の名探偵」

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   タケさんはおもむろに立ち上がり、地図を自分の前でヒラヒラさせて言う。 「僕が越してきたのは最近。具体的な住所を言わない限り、初めて僕の家を訪れる人は必ずと言っていいほど、駅内の町案内図で確認します。その死角を利用したヒントでした」 「……あ、当たってた……」  正直なところ、そこまで自信があるわけじゃなかったからホッとした。今になってやっとまともにタケさんの顔を見れた気がする。さっきまでの真剣な表情が消え、柔らかく話やすそうな雰囲気になっていた。 「実はここ数日にも何人か僕の家に来たんですが、誰一人として最後まで説明できた人はいませんでした。全員『なんとなく』。完全に推理のみで来れたのはあなただけです」  俺の目の前に右手が差し出された。体が細身の割りには大きい。 「改めまして、僕は笹原武一と申します。あなたのお名前は?」 「黒井秀(クロイシュウ)です……あの、敬語使わないで下さい。年下なんだし」  人と握手を交わすなんて、小学校の入学式で校長とやって以来かもしれない。握った手を何度か振ったあと、タケさんはまたニッと俺に笑いかけた。 「よし、じゃあシュウくん。正解のご褒美に僕も1つ推理してみせよう――そろそろ、君のお友達が迎えに来るよ」
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