9人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
さっきの太陽の話と同じで、見落としさえ埋めてしまえば一般常識のみで分かる内容だと思う。
「わざわざ『洗濯物を干す時』と書いてあることからも分かるように、時計塔を見るためには条件が必要になります」
「条件?」
「ベランダに出ることです。普通ベランダは太陽の当たり具合を考えて、南側につくられます。だから、時計塔はそのベランダから見える範囲にあるはず」
「範囲ですか……公園のを見るのはさすがにキツいと思いますけど」
「はい。俺も最初は公園の時計塔だと思ったので混乱しました。でももう1つの時計塔があったんです」
タケさんは何も言わず、俺の手の動きを目で追う。
「死角に入ってしまう、本当の時計塔……。ここです」
俺が示したのは松林駅の出口だ。北でも南でもない、ただ出口と言える場所。
俺と緒方はさっき駅の中で地図を見ていた。だから気付かなかったんだ。松林駅の出口にも、屋根の真ん中に時計塔があったということに。
「この時計塔が見えるのは、茶道教室と隣家の間の延長線上にあるこの家だけ……」
恐る恐る顔を上げると、タケさんが笑っていた。
「お見事です」
最初のコメントを投稿しよう!