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「だあーー、遅かった!」
購買部に群がる群衆を見て、サイナ\n\ユユ はガックリと肩を落とした。亜麻色の髪に琥珀の瞳。中世的な顔立ちに髪型もボーイッシュなため、顔だけ見れば性別がわからない。けれど、制服はスカートで、胸を見れば嫌でも女性であるということが見て取れる。
「まさかここまでとは……ふ、正直舐めてかかってたわ」
ふるふると拳を震わせながら笑い、うなだれる。
菓子パンやノートなどを普段は扱っているため、昼食時に混むことはあっても、午前中、しかもまだ始業ベルがなっていないときにここまで混むことは予想していなかった。
棚と棚との隙間には押し込まれるように生徒が並び、レジを今か今かと待っている。その手には紙が数枚、しっかりと握られていた。長蛇の列は購買部に収まり切らす、購買部の外まで伸びている。けれどそれでも収まり切らないので、途中で折り返してまた戻ってきていた。
「もーー、レンが遅いから支度が遅いから寝坊なんかするから」
ユユが叫びながら後ろを、欠伸をしながらやってくる少年を指差す。少年は口を開いたままなにか言ったが、なにせ欠伸をしながらだったのでなんといったのかユユには聞き取れなかった。
ユト\n\レン。ユユとは同級生の少年だ。寝癖を溶かそうと手櫛をかけるが、飴色の髪は硬く、まったく言うことをきかない。一本一本が自己主張を持って外に向いている。成長を見込んで買った制服はぶかぶかで、袖も裾も数回追ってやっとちょうどいい長さになっていた。
「どうすんのよ、もう残ってないかもよ! 今月お小遣いピンチだから、安い購買部で買おうって決めてたのに~~」
長蛇の列を見てあたふたするユユ。レンはそんなユユを涙目で見ながら、
「大丈夫だ」
「一体なにが大丈夫なの?」
「僕の魔導紙は絶対売り切れてない」
グッと親指を立てると、ギューーッとその親指を握られた。
「い、いたた、ユユさん、いやユユ様、痛いです痛いです、握り潰されそうです」
「あんたのは残っててもねえ、あたしのは残ってないかもしれないでしょ。え?」
地のそこから響くような声にレンが震え上がる。逃げようにも、親指を掴まれて距離が取れない。
「だ、大丈夫だよ。まさか売り切れたりしないって。まだ開店30分だぜ? ユユが欲しいのは水の1mmでしょ? まさかそんな早く売り切れるなんてことはーー」
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