私の中のモノ

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「こんな所にいらっしたんですね。教頭先生が探してましたよ」 宮沢先生は、微笑みながら、先程とはうって変わって、女性らしい甘い声で仁ちゃんにそう言った。 なんとなく……感じ悪い。 だって、宮沢先生の顔は、教師の顔ではなく『女』の顔をしている。 その顔は時々、京子ちゃんが光くんに見せる顔と同じだったから分かる。 宮沢先生の仁ちゃんに対する好意は、同僚としてじゃない。 宮沢先生を警戒する私をよそに、仁ちゃんは至ってフツーに「ありがとうございます」と、頭を下げた。 そして、私の方を振り返り、宮沢先生に見えないようにパチンとウィンクをして、 「良かったな相田。宮沢先生に免じて勘弁してやる。今日の放課後は必ず保健室来いよ」 そう言って回れ右をして去っていった。 何のコトだかさっぱり分からない私は、仁ちゃんの背中に小さく「分かりました」と答えるのがやっとだった。
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