14 恩寵

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 最初竹中は城東駅付近まで来てから、そこで地図アプリを開いて会場を調べるつもりでいたが、それと覚しき雰囲気の建物数棟と、その中で人がざわついている感じのする場所に気付いて、アプリで調べてそこが目的地だと解って直行した。 「あ、竹中先輩」  駐輪場に自転車を駐め、ホール前の広場までやってきた彼を見付けたのは、光画部一年の山之内だった。 「篠原先生から来るかも知れないって聞かされてたけど…ホントに来てくれたんですね」 「…なんか期待してなかったみたいな口振りだな」 「来ないと思って…私、絶っ対に来てくれるって思ってました」  全速力で自転車を漕いで疲れていたので、ツッこむのも面倒だと、今の言葉をスルーしながらエントランスへと入っていく。 「ん~と…ウチの学校の吹奏楽の連中はどこ?」 「入って右の奥を真っ直ぐですけど…なんですかそのケース、何持って来たんです?」  後ろを付いてくる山之内にそう訊かれて、それに答えるよりも先に、別の誰かが竹中の名を呼んだ。 「竹中~、来たのか」  声を掛けてきたのは、吹奏楽部の二年で一年の時に竹中と同じクラスだった美橋研司だ。 「あ、そうか、お前吹奏楽部だったんだっけ」 「覚えてないのかよ、薄情なやつだな。まあ、そこまで仲が好いわけでもないからいいけど…そういや篠原先生がお前の事を変なヤツだって言ってたけど、お前先生に何言ったんだ?」 「あぁ…あれね…」  適当に笑って誤魔化していると、彼を変なヤツ呼ばわりした篠原先生が竹中を見付けて駆け寄ってきた。 「竹中君、来てくれたのね」 「…でも、撮るのは山之内ですよ。でなきゃこいつが来た意味がない」 「…なるほどね」 「あと、ここにきた一番の理由はこれなんですけど…」  と、肩にかけていたケースを手渡す。  最初二人はそれが何なのか解らずキョトンとした顔をしていたが、例のタグに気付いて、これが何なのかを理解する。 「これ、近江のフルートじゃ…」 「竹中君、これはどこで?」 「電車ですよ、見付けたのは知らないお爺さんでしたけど…同じ学校の学生だろって渡されたんです」
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