13 来訪者

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 直哉も心のどこかではあまりいい事ではないと感じているようで、結城としてはその言葉を彼から聞けただけで満足しているようだ。  そうこうしている内に、車は駅のロータリーに入っていって、タクシー乗り場から離れた適当な場所で停車した。 「じゃあ、また連絡ください…」  ここで下りる予定の結城が、そう言いながら助手席の真光に何かを話そうとした時、一人の女性が車に駆け寄ってきて、いきなり結城の腕を掴んで引っ張ろうとする。 「誠一!やっぱりまた変な所に行ってたんでしょ!」 「ぅわっ!あ、茜?何でここに…」 「二週連続で飲みに行くって、そんなに飲めないあんたにしてはおかしいって思ったのよ。そしたら友達から、あんたが駅前で大きい車に乗ってどこかに行ったって電話があって…」  いつからここに張り込んでいたのかは不明だが、おそらく駅ロータリーに車が徐行で進入した時点から、彼女は走って追い駆けていたのだろう。  そうやって結城を捕まえて、取り敢えず言う事を言うと、今度は結城と話そうと窓を開けていた真光にツカツカ詰め寄って、臆する事無くドア越しに彼を睨み付ける。 「あたしはあなた達がどこに行こうが、何かに取り憑かれようが、怪我しようがどうでもいいんです、関係のない他人ですから。ただ、誠一を巻き込むのはやめてくれませんか?」 「ちょ、ちょい、茜…」 「誠一は黙ってて!」  獣の咆哮の如き一喝で、彼女を宥めようとする結城を黙らせる。 「…とにかく、危ない目に遭いたいのなら、あなた達だけで好きなだけ勝手にやっといてください。言いたいのはそれだけです」  吐き捨てるようにそう言って、殺意すらも感じる目で真光を睨み付けたまま、結城の耳を掴んで彼女は彼を引っ張っていく。  エスカレーターに乗って視界からいなくなるまで、彼女は執拗にこちらを睨み付けていた。 「…あれがトシさんの彼女ですか?」  すごい剣幕で彼女が現れた時点で、後部のスライドドアを閉じて身を隠してとばっちりから避難していた直哉は、走り出して遠ざかっていく駅舎を見詰めながら呟く。 「トシは否定してるがな…しかし…」
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