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「…へぇ、あの三人を仲介したのはヒロさんだったんですか。誰が呼んだんだろうって思ってました」
真光の眼光の圏外にいる直哉が、柏木が威圧されている事などお構いなしに…と言うよりは、助手席の真後ろに座る直哉には真光の様子が覗えないので、柏木が妙にアタフタしているなとしか思わずに、先程の流れで話し掛けた。
それが真光から毒気を抜くような形になって、柏木は彼の刺すような視線から逃れる事が出来た。
「…ああ、浦上亜由美ってセミロングの子が居ただろ?」
助かったと胸を撫で下ろした柏木は、虎口から抜け出させてくれた恩人の問いに応える。
「あっ、彼女が…ですか」
あの時、彼女と同行してきた同じ中学の美馬君の片思い中の女の子のことだ。
その事を聞き出してから、どういう行動に出るのかな?と、それ以降は二人の様子をチョイチョイ観察していたので、たったそれだけの説明で直哉はピーンときたようだ。
が、それを知らない柏木にしてみれば、三人居たのに…と、どこか腑に落ちない気持ちになる。
「…そうなんだが…今の説明で即答するってのも気になるな…」
「…は?」
「直哉…お前まさか…亜由美に一目惚れしたとか言うんじゃなかろうな?」
「はい?」
「俺が仲介して参加さたものの、俺が目付で参加出来なかったから…まさかお前、何かしたんじゃないだろうな」
「何それ?そんな訳ないでしょが」
「ホントか?アドレス交換とかしてないだろうな?…数ヶ月後に『私達交際してま~す』なんて事になった ら…もしそうだとしたら、俺は伯母さんに八つ裂きにされるかもしれないんだぞオイ!」
師として仰いでいた頃の記憶がそうさせるのか、柏木は伯母ならやりかねないと本気で思い始めていた。
「何興奮してるんですか、俺はその子の事を狙ってませんって」
『狙っているのは美馬君』
と、勢いで口を滑らせてしまいそうになった直哉を救ったのは、椿原の一言だった。
「着いたぞ、二人共下りろよ」
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