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午後十一時三十分。
テスト期間中である竹中は、今日もこの時間まで勉強していた。
普段はそれほど勉強しないと先述しているが、テスト期間に一昼夜漬けをしている訳ではない。
脳は、今日一日起きている間の出来事を寝ている間に整理するように出来ている、だからキチッと記憶する為には一定量の睡眠が必要不可欠である。そして、睡眠に入るまでの一時間の事が一番鮮明に記憶される傾向にある。
それを踏まえて彼は、自宅に帰ってきて、テスト範囲の勉強をした上で、寝る一時間前あたりから要点を押さえた総まとめをして、そうやって眠る事にしている。
そうやって今日も勉強していた竹中は、時間的に寝る前の最後の総まとめに入っていた。
父は会社の旅行で一晩不在、姉は友人と飲みに行くと言って出掛けてまだ帰ってきていない。彼一人しかいない、ほぼ無音の中で机に向かって勉強に集中していた竹中だったが、突如その静寂を打ち破る電子音が鳴り響いた。
プルルルル…プルルルル…
誰かは知らないが、こんな時間に電話が掛かってきた。
親機と子機二台、微妙にずれて鳴り響く電子音、その内一つは『エリーゼの為に』が含まれる三重奏を聴きながら、集中力が削がれて少しイラついた彼は、いちいち出るのも面倒だと留守電に切り替わるのを待つ。
が、いつまで経っても留守電が作動する事はなく、掛けてきた相手が諦める様子も無さそうなので、仕方がないなと頭を掻きむしりながら竹中は部屋を出た。
「もしもし、竹中ですけど」
リビングの照明スイッチを入れながら、留守電を入れ忘れた電話の受話器を手に取って出ると…
―もしも~し、こちらも竹中で~す―
「…切るぞ、姉さん」
―あーダメダメダメ、切らないでー―
という姉の言葉を無視し、そのまま受話器を下ろして切ってしまう。
…数秒後、再び電子音の三重奏。
「…俺、今テスト勉強の最中だって知ってるよな?」
―だからって切らなくてもいいじゃない―
「せめて、もう少し申し訳なさそうに話すとかあるだろ?何が『こちらも竹中で~す』だ、何考えてんの?」
―…シゲ…こんな時間に掛けてきて、ホンっとに悪いんだけど…ちょっと頼みをきいて欲しいのよ…って、これでいい?―
何も言わず、再び受話器を下ろして電話を切る。
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