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…電子音の三重奏、電話に出る。
―だから、人の話聞きなさいってば―
「…そっちも、人の話を真剣に聞け」
―面倒な弟だな…―
「それはこっちのセリフ、じゃあもう切るよ、明日もテストあるんだから」
―ダメだっての、切・る・な―
受話器を耳から離し、またそのまま切ってしまおうと思った竹中だったが、どうせまた掛けてきて堂々巡りが続くと判断した彼は、大きな溜息を一つ吐く。
「…で、頼みって何?」
―よくぞ訊いてくれた、可愛い弟よ―
電話線を抜いてしまおうかと考えつつ、姉が家に電話を掛けてきた用件が何なのかを訊いてみると…
「…彼氏?」
―そう、何があったのか分かんないんだけど、さっき急に家に泊めてくれって電話があってね…―
「そんなの断ってよ」
―断ったんだけど、三十分ぐらい粘られちゃってさ…それに何か変に怯えてるみたいだったし―
「怯えてる?」
―風呂場に何か出たって…何の虫が出たのか知らないけど、それぐらいで怯えるって、可愛くない?―
「可愛くねえ」
自分で言った事に対してなのか、竹中の言葉に対してなのか、姉は受話器の向こうで大笑いをしていた。
一頻り笑った所で、無意味に待たされてムッとし始めた弟の言葉など意に介さずに、
―じゃ、あたしもすぐに帰るけど、弘人が来たらよろしくね―
「ちょっとぉ、勝手に…」
―プツッ…ツーツーツー…―
と、一方的に切られてしまった。
『明日もテストがあるってのに…』
竹中は思わずその場にしゃがみ込んで、頭を抱えて動かなくなった。
この期末テストの如何によっては、今月半ばから始まる夏休みを有意義に過ごせるかどうかが懸かっている。
超一流の国立大学を目指す勉強の虫であるのなら、自ら勉学に勤しむだろうから彼の考える次元の心配はないが、なるべく補習を避けておきたい竹中にとっては大問題だ。
『厭味の一つも言って、居心地の悪い空気にして帰らせようか?』
という『ナイス』というか『厭らしい』というか、そういう考えに至った所で、客人の来訪を知らせる玄関チャイムがリビングに鳴り響く。
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