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「何?あたしを驚かそうとしてるの?」
照明が点滅をし始め、晴佳はそう言って陽気にコロコロと笑い出したが、何が起きているかの心当たりがある二人はゆっくりとベランダを振り向いた。
その女は誰なのよ!
レースカーテン越しに見えるその女の霊は、柏木を見てはっきりとそう言っていた。
「完全に彼女気取りですね、何をしでかすか分かったものじゃ…」
「こんな修羅場、納得できるかよ!」
霊感の無いの晴佳には彼女の声は聞こえていないので、二人が何も無いベランダを見て、何に対して焦っているのかが解らない。
「二人共何を言ってるの?」
そう言って晴佳は柏木に近付いて彼の手を取る…
パン、パン、パシパシ、パァンッ。
途端に部屋のあちこちから家鳴り―ラップ音が鳴り出した。
「きゃっ…なになに!」
驚いた拍子に晴佳は柏木に抱き付く、恋人同士なのでそれ自体は何の問題もない行動だ。だが、それを認められない者約一名がベランダにいる。
あたしの男から離れなさいよっ
その叫びと共に窓が外れんばかりに、激しく音を立てながら揺れ始めた。
『このままだと結界が保たない!』
慌てた竹中は、急いで姉の腕を掴んで柏木から引き剥がそうと試みるが、いきなりそんな事をされて大人しく従う姉ではなかった。
「ちょっと、何してんのよ」
「いいから離れて、でないとベランダの幽霊が収まらないんだってば!」
「…??」
「そうだ、俺に取り憑こうとしてる女の幽霊がそこにいるんだ」
「女…」
二人共幽霊が見える体質だと知っている晴佳は、今起きているのが心霊現象だとすぐに理解した。が、彼女はあらぬ結論を導き出す。
「弘人…浮気相手の生き霊?」
「…お前、まだ俺が浮気したって疑っているのか!?」
「そんな事は余所でやってくれっ!!」
色々と限界に達した竹中が大声を上げた。
「僕明日テストあるんです、ホント出てって下さい、僕に安らかな一晩を提供してくださいお願いします」
一気にそう捲し立て、テーブルの上に置いたスマホを手に取る。
「真光さんのいる晴眼寺の場所を教えますから…」
がしかし、こういう心霊現象が起きている時は、電子機器が正常に作動しないという事が往々にしてある。
三十分後。
簡単な結界を張った柏木の車に乗り込み、晴眼寺へ向けて走り去る三人の姿があった。
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