14 恩寵

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 土曜日。  光画部が常連としているカメラショップから以前に注文した品物が届いたとの連絡を受けて、宅配便の現金書留を利用せずに支払いと受け取りの為にわざわざ七つ駅先まで電車に揺られて行ったのは、ただ単に竹中がお店に陳列された中古のカメラやレンズを眺めるのが好きだからと言う理由だけだった。  もし江藤や戸部や成宮などを誘っていたら、話が弾んで一時間近くはお店の中でレンズを眺めていたかもしれないが、さすがに柊や園部は、彼のこの行動に付き合う気にはなれないようで、今日は彼は一人でお店に来ていた。  そんな彼は何を注文していたのかというと、Cマウントのレンズをマイクロフォーサーズマウントのカメラに装着させる為のアダプターを注文していた。  なぜそんな物を注文したのかと言うと、四月の頭辺りの出来事以降、真光からの大丈夫というお墨付きを貰った八雲レンズだが、自分のカメラで使用出来ないというのもあって、彼は一度も手に取っていなかった。 『誰かが使っているだろう』  そう思っていたが、ニコ○-1自体を使う事があっても、八雲レンズは使われていない事を知る。  理由は、扱いにくいの一点のみ。  露出計が使えないし、ただでさえ小さいファインダーなのに拡大表示が出来ない。ニコ○-1とセットで使い続けるのは、かなりの無理が発生してしまう。  感覚としてそれを完全に自分のモノにして撮影しようという、ニコ○-1にのみ特化しようという猛者は、残念ながら光画部内には一人もいない。  とは言うものの、F値0,95の性能を防湿庫内に放置しておくのはもったいない、そこで彼はこのレンズアダプターを購入して使ってみようと考えた。  ニコ○-1以外でこの八雲レンズを装着して、ケラレの影響が少なく使用できる一眼デジカメは、マイクロフォーサーズとペンタック○のQマウント。  部員の中でQマウントのカメラをを誰も持っていないので、レンズの現所有者である部長の成宮も、自費でアダプターを買う事を条件に、竹中が好きに使っていいと認めた訳だ。
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