14 恩寵

3/16
前へ
/221ページ
次へ
 ただ、自費で購入とは言うものの、電子接点のないMFを想定されたアダプター、見方を変えればただの輪っかなだけに、値段は定価でも三千円程度、他のカメラ用品の値段を考えればかなり安く済むので、それほどの痛手にはならない。  そういう訳でアダプターを取り寄せ注文、品物が店に届いたと連絡があったのが昨日。  期末テストが終わって十日程、結果が全て返ってきて、夏休みの補習が強制ではなく、自由意思での参加という事に収まりそうだと確信できて、撮影旅行はどこに行こうかと考え始めた頃合いであった。  だから昨日お店に来ていても問題はなかったのだが、連絡を受けたのが駅を下りて駐輪場で自転車の鍵を開けようとしていた所だった。  再び電車に乗ってUターンするのも面倒だったので、この日の土曜日の休日に受け取りに来た次第だ。  そう言う訳でお店にやってきた竹中だったが、すぐさまレジに行く事はなく、いつも通り十数分ほど中古レンズの陳列棚を眺めた後、ようやくレジに行って注文の品の受け取りの旨を伝える。  代金を支払って、店員が品物を袋に入れている時に、ふと後ろのショウウィンドウに置かれた新品のレンズの存在に気付いた。  そこにあったレンズとは、コシナフォクトレン○ー製、NOKTON42,5mmF0,95。単焦点MFのレンズだった。  値段は十一万ほど、高校生の彼には到底手が届きそうもない。  袋に品物を入れて手渡そうとした店員は、常連の彼とは顔馴染みで使っているカメラも心得ているので、視線の先を追って彼が何を見ていたのかを即座に理解した。 「NOKTON…買いますか?買いますね?」 「…いや、無理ですって、あの値段は」 「いやいや、F値0,95の世界見てみたいと思いませんか?」 「まあ…ねえ…」  適当に笑って誤魔化す竹中。 「…でも、このアダプターで八雲の0,95を使うつもりなんで、大丈夫です」
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加