14 恩寵

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 帰りの電車。  シートに腰掛けてボンヤリとしていた竹中は、不意にある事を思い出して考え込み始める。  今日買ってきた品物の事でもなければ、間近に迫りつつある夏休みの事でもない。  テスト期間の半ばを過ぎた辺りの晩に起きた、柏木が自宅に現れた時の出来事。その時に彼から聞かされた、守護霊と彼との関わりについてと、彼を護らなくなったという状態、そしてそれを戦いだと言った柏木自身の事を思い起こしていた。  最初その話を聞かされた時も驚いてはいたが、テスト期間中だった為にその事は一旦頭の隅に追いやって勉強に集中し、テストが終わってからは返されてくる答案用紙の採点結果に意識が奪われていたので、ほとんど顧みる事はなかった。  が、結果が全て出終わり、撮影旅行の事を考えるゆとりが持てるほどになってくると、ふとした間で柏木の話を思い出し、結論の出ない堂々巡りが頭の中で始まってしまうのである。  真光にその疑問をぶつけてみた事もあるが、柏木自身が決める事柄であって我々が考えても詮なき事と言って答えようとはしなかった。  しかし、守護霊が道を逸れる行為や思想などに対して、何かしらの働きかけをしてくるという事は教えてくれた。 『その働きかけの一つが、護らないという行動なのだろうか?』  そうまでして彼の守護霊が彼に求めるモノとは何なのか?そして、彼がそうまでして己の戦いに固執する理由はなんなのか。  その堂々巡りに陥ると、決まって結城の話した不思議な出来事も思い出し、メリーゴーランドに乗り込むようにして一緒に回り始める。  結城がまた別の巡り会いを模索するのも、守護霊の働きかけによる何かなのか?仏国土の住人は守護霊と何かしらの繋がりが存在しているのか?  答えが出ないと解りつつ、答えを求めて思考の海に潜り続けている竹中を、誰かの声が現実へと引き戻した。 「…中君…竹中君…」
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