14 恩寵

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 はっと我に返った竹中は、自分に向かって呼び掛けてきた声の主を見上げる。 「…寝てたの?竹中君」 「うわあっ」  何から何まで同じ顔が、並んで見下ろす光景に竹中は思わず声を上げた。 「…何?」 「お…大谷か…そういや君ら、双子の姉妹なんだったけ…」 「そう…だけど?」  驚いて後ろの窓に頭をぶつけて頭頂部を摩る竹中を見下ろしているのは、彼の同じクラスの大谷香織と、双子の姉妹で姉の眞由美の二人だった。  眞由美とほぼ面識のない竹中にしてみれば、情報として彼女が双子だと知ってはいたが、実際に二人同時に顔を見たのは始めてだったので、別の事に気を取られていた所に虚を衝かれた形となってしまったのだ。  大谷の方は大谷の方で、こんな風に驚かれる事は頻繁にはないが皆無でもないので、彼の挙動に多少の不愉快さはあるが不機嫌になる程ではないようだ。 「なぁに?眞由美が幽霊か何かだとでも思った?」 「は…ははは…」  まさか『背後霊だと思った』と正直に言う訳にも行かず、適当に笑って誤魔化す。 「…で、何一人でブツブツと呟いていたの?」 「え?」 「希美が謎の呪文唱えている変な人がいるって、見てみたら竹中君が…」 「いや、言わなくていいから…」  と、半歩後ろに立っていた神崎希美が、余計な事まで言わなくていいと大谷が話すのを制しようとするが既に遅く、竹中と目が合った彼女は気まずそうに笑って大谷の背中に隠れた。 「…ちょっと考え事を…そうか…声に出ていたか…」  自分も謎の呟きを続ける人間と遭遇したら変な奴だと思うだろうと、取り敢えず神崎の事は気にせずに、無意識の内に思った事を口にしていた事の方を問題視し始める。  どうせ今の所答えが出ないのだから、あまり考えない方が良さそうだなと考えていると、大谷は彼が手にしている小さな紙袋に気付いた。
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