14 恩寵

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「何か買いに行ってたの?」 「…ああ、これ?レンズアダプターを買いに行ってたんだけど…言われても解らないか」 「うん、分かんない」  バッサリと切り落とされた気分だが、いっそその方が清々しい。 「いつもの二人は…今日は一緒じゃないの?」 「二人?…ああ、ハヤトとキョウは俺のカメラ趣味に、そこまでは付き合ってくれないから今日は一人」 「ふーん…だって」  と、大谷は背後に隠れている神崎に呼び掛ける。 「…あたしに振らないでよ」  迷惑そうにそう答える神崎の声を聞きながら、竹中は後で園部にメールして悔しがらせてやろうかなと、頭の片隅で思ったりする。 「…それはそうと、君らもどこか出掛けるの?」 「ん~、正確には出掛けた後かな、眞由美が学校に用があって…」  と、彼女は姉の眞由美の顔を見た。 「なんか陶芸部で作品焼いてる最中らしくって、窯が正常に動いているか確認してくれって頼まれたみたいで…」 「へぇ~」  体育系の部活の事はなんとなく話は来るのである程度の事は知っているが、文系の部活動の事はあまり知らない。ので、そこまで知らなかった竹中は思わず感心したような声を上げた。 「学園内に窯があるんだ」 「登り窯みたいな立派なヤツじゃなくて、小さな電気釜なんだけどね…」 「…そりゃそうだろな」  登り窯とは、階段状に窯が並んで繋がっていて、火を入れて加熱された熱を効率よく利用して大量の陶器を焼ける窯の事で、大型の四段五段になると結構な迫力がある。そんなものが学園内にあったら、気付かない方がおかしいだろう。 「…陶芸に興味があるって事は、焼き物の里とかにも興味あるとか」 「そうねぇ…瀬戸とか備前とか信楽とか…六古窯の町には一度でいいから行ってみたいかな?」  軽い気持ちで投げ掛けた問いに、そこそこディープな答えが返ってきて困惑する竹中。  しかし、自分もカメラに関してはそういう部分があるので、人の事は言えないなと愛想笑いをしながら。 「そうなんだ」  と、無難な返事をして適当に流した。
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